「海のカーテンで空を泳ぐ」

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マチ子さんは部屋のカーテンが古くなったので、

新しいのに買い換えることにした。

ネットショップでカーテンを買う。

カーテンは今までの経験上、シンプルで

自己主張しないものが良い。

その時のときめきだけで選んでしまうと失敗するし

いずれ飽きる。

部屋に馴染み、かつ広く見せるベージュ色が良い。

画像で色を確認し、サイズもぴったりだ。

購入ボタンをクリックして、バタバタと家を出、

会社に向かう。


**********************


帰り道、夕暮れ。

今日は残業して遅くなったけど、

ちょっと寄り道してみよう。

夏至を過ぎてもまだまだ明るかった。

いつもとはちがう道を通って、

河川敷へと出る。

川に沿い歩いていると、

どこからか歌が聞こえてきた。

向こう側の桜の木の下で、ストリートミュージシャン

がギターを弾いている

そのままとおり過ぎてゆくと

背後からかすかに「僕を愛して」

と聞こえたような気がした。


遠くに街明かりが見えてきた。

まるで一つ一つの明かりが一人ひとり、

人の数みたい。

人間は輪廻転生をくり返すというけれど、

全員がくり返してたら、人の数は減らないだろう。

世の中は少子化なんやで人口が減っているのに。

生まれ変わる人=魂が減ったからなのだろうか?

もう私はじゅう分、

僕はこの時代でじゅう分生ききった!

という人(魂)が増えて、ネハン?の域に入り、

生まれ変わらなくなって、つまり転生人口が減ったから??


でも、そうした魂はどこへいくのだろう。

空高く、宇宙の果てまで行くのだろうか。

または溶けて消滅し、地球の血と肉となるのだろうか。

でも、それもいい気がした。


マチ子さんはさっきより増えた街明かりをみた。

これからだんだん夜に変わっていく。

振り返ると、西の空と雲がオレンジとピンクに染まっていた。



*****************



次の日の朝、カーテンが届いた。

予定では2日後なのに、

1日早かったなぁ、まあいいか。

などと思いながら包みを開ける。

「!?」

入っていたのは、

真っ青な、空色のカーテンだった。

空色が真っ青というのはおかしかったが、

彼女は空色だと思ったのだ。


マチ子さんは少し考えてから、

その空色のカーテン部屋にかけてみた。

まるで海面すれすれを飛ぶ鳥みたいに

窓から風が入ってきて、カーテンがゆれた。

空は真っ青で眩しい。

木の葉がさらわれるくらい風になびいている。

どこか異国の風景のようだと思った。

カラリとした光と影のコントラストが

きれいだった。


きっと梅雨は明けたんだ、と思った。

だってセミが鳴き始めている。

マチ子さんの耳にはいつの間にか、

河川敷のミュージシャンの歌が聞こえていた。

あの時「僕を愛して!」と叫んでいた。

そう、気のせいじゃない。

確かにそう言っていた。



(おわり)
















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by kuroshiro_neko | 2015-07-19 01:00 | 短編集

シロクロの絵とエッセイなど書いています。ブログ内で「アカリノムコウへ展」不定期開催中です。いつかギャラリーでも個展を開いてみたいてすね。
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