短編「手紙」

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それは突然だった。

君が遠くの町へ引っ越すと言う。

でもあまりびっくりしなかった。

それは自分でも

なんとなくわかっていた気がするから。

だから普段と変わらずにいた。

君はいつもゆっくり歩き、

ゆっくりしゃべる。

肌は透けるように白く、

まるで木の棒みたいに

ひょろっとしていて、背は高い。

太陽は好きだと言うが、

陽の下を避けるように過ごす。

たぶん、あまり身体が良くない。

だぶん、というのは、どんな病気なのか

本人に尋ねても、いつもかわされ、

シレっと流されてしまうからだった。


今回引っ越すのも、もっと専門の病院で

治療を受けるためと聞いた。

噂では相当悪く、もうあまり永くは生きられないと

近所のおばさんが言っていた。



彼は半年前、このクラスに転校してきて、

家が近所だったこともあって

一緒に帰ることが多かった。

先生は彼の身体を気づかって

ちゃんと彼を送り届けるよう

よろしく頼む、ということだったが

そんな周りの心配をよそに、

放課後タワレコに行ったり、ゲームセンターで

遊んだり、校舎の屋上に行って

夕陽を眺めたりした。

そんなひと時が楽しかった。

彼はよく屈託なく笑った。



前日は教室に集まって

クラスのみんなで彼のお別れ会をした。

泣いている友達もいた。

元気でね、遠くにいても頑張って。

連絡して。遊びにいくから。

元気になって。

ほんと元気でね・・・・・


放課後、

大きな花束を抱えた彼と帰る。

「楽しかったね。」

「そうだね。」

「泣いちゃった?」

「まさか。」

ちょっと聞いてみる。

「ねぇ、最後なんだし、その病気なんだか教えてよ。」

「あはは。しつこいなぁ。」

「いいじゃん。減るもんでもなし。」

花束が歩くたびにガサガサ鳴る。

「じゃあいいよ。」

「ほんとに?」

「うん、あしたの出発前にうちに来て。ちゃんと教えるから。」

「やった。」

「そんなに嬉しいかなぁ。」

「嬉しくはないけど、隠してると聞きたいっていうか。」

「なんだ。あははは。」

君が笑うたび、持ってる花が揺れた。



次の日、彼の家に行くと

そこはもう”もぬけの殻”だった。

近所のおばさんが言うには、

少し予定が早まって、朝早く出て行ったらしい。

「あなたによろしく伝えておいてって。」



その部屋はガランといていた。

まだ午前中の陽が差し込んでいて、

より一層、何もない部屋をあかるく照らしている。

目の前の窓に何か小さい紙のようなものが

貼り付けてあるのを見つけた。

手を伸ばしてはがすと、

その紙は二つ折りになっていて

光に透かされて、なにか書いてある。

開いてみると、

そのメモのような手紙には

ちいさく、見慣れた字が書いてあった。

読み終わったあと、いつの間にか

次から次へと涙があふれだしていた。

バカだな。わたし、相当バカだ。

今ごろ気づいた。

救われていたのは、わたしの方だ。




「今日気が付いた。

ここしばらく思ってなかった。

今日、思ったとき

そのことに初めて気が付いた。


君が救ってくれていたんだね。

ありがとう、

ほんとうに、ありがとう。

今度あうとき恩返せるかな。

君にあうまでの僕は

ずっと死にたいと思ってたよ。」



(おわり)








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by kuroshiro_neko | 2016-02-09 23:28 | 短編集

シロクロの絵とエッセイなど書いています。ブログ内で「アカリノムコウへ展」不定期開催中です。いつかギャラリーでも個展を開いてみたいてすね。
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